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皆さんは人事労務についてどのくらいの知識を有しているでしょうか。
もしかしたら、何も知らないと言う方もいるかもしれません。
しかし、往々にしてそのようなものです。
介護士として現場に従事していると、人事労務について学ぶ機会はなかなか無いから仕方がないのです。
ですが、全くの無知ではいささか不安です。
今回は、そのような人のために介護現場で多い人事労務問題をまとめていこうと思います。
今回のテーマは「介護士が知っておくべき人事労務問題」です。
この記事で学べること
・介護事業所で多い人事労務問題
・人事労務の基礎知識
まずは、介護事業所でよく聞く労務問題からみていきましょう。
介護事業所で多い労務問題(トラブル)と原因
以下の内容は、従業員が考える問題と、経営層が考える問題をそれぞれの立場で表したものです。
【労】働いてみると「聞いていた話と違う」ので確認した
【使】雇入れ後に「求人票と条件が違う」と文句が出る
【労】サービス残業をさせられるので、残業代を出してほしいとお願いをした
【使】始業前準備や昼休憩中の業務延長時間に残業代が出ないのか?と言われる
【労】いつも指示ばかりして、自分は何もしない上司に腹が立つ
【使】指示を守らない反抗的な態度のスタッフがいて困る
【労】施設を良くしたいので、前職の経験を活かして提案をしてみる
【使】以前働いていたところでは〇〇だったのに。とクレームをつけてくる
【労】面接の時に小さな子供がいる事を相談し、大丈夫だったので安心して入職した
【使】小さな子供がいるとのことで休みが多いスタッフがいて困る
【労】人間関係に悩んでいるが、相談してもまともに聞いてくれない
【使】健康状態(メンタル上の問題を含む)が悪いスタッフがいる
【労】家庭の事情があり、申し訳ないと思いながらも今後の夜勤を断った
【使】夜勤をしてもらう前提で雇入れたのに、急に夜勤ができなくなったと言ってくる
【労】給料が他より安く、会社の将来性が不透明、そもそも評判が悪い
【使】求人をかけても応募がなく、人材確保に困っている
【労】資格至上主義やお局様がいて仕事がやりにくい
【使】いつも新人は、すぐに根を上げる
【労】教育体制が整っていないし、それぞれが自己の価値観で動いていて何が正しいかわからない
【使】ぜんぜん仕事ができないスタッフがいて、辞めてもらいたいと思っている
自分も、相手も人間で感情があります。
そのため、コミュニケーション不足が原因の1つであることは間違いありません。
しかし、もう1つ大きな原因があります。
それは「労務リテラシーの欠如」です。
リテラシーとは
目的のテーマに対して、しっかりとした知識や理解度があるかどうかを表す言葉です。
つまり、労務リテラシーとは、労務に関して正しい知識や理解を有していることを指しています。
労務問題の多くは、この労務リテラシーの欠如も大きな原因の1つです。
特に、管理者(役職者)の労務リテラシー不足は大問題です。早急に改善してもらう必要があります。
さっそく労基法の主な改正ポイントを押さえておきましょう。
労基法改正に関する主要なトピックス
トラブルを防止したり、問題が発生した際に建設的な話し合いをするためには、互いの労務リテラシーの向上が不可欠です。
①労働時間規制 ⇒ 「大臣告示」から「法律規定(罰則付)」へ
法定労働時間
1日8時間、1週40時間を上限とする労働時間の規制があります。
まずは、これが原則です。
この範囲を超えて労働者を働かせることは違法となっています。
しかし、例外もあります。
それが「36協定(さぶろくきょうてい)」です。
通常、法定労働時間以上の労働をさせることは違法ですが、この36協定を労使間で定めていることで「残業ができる」ようになります。
よくあるパターンとして、労働者の1人が労働者の代表として使用者と契約を結ぶ形式です。
注意しておきたいことは
36協定 = 悪 ではないことです。
残業ができないことによって発生するデメリットもあるため、基本的にどの企業も36協定を結んでいます。
この36協定を結ぶことで、下記のように時間外労働ができる枠組みが設けられます。
原則:月45時間、年360時間以内
やむを得ない場合:月平均60時間(年720時間)以内
その他
・休日労働を含んで2ヵ月ないし6ヵ月の月平均を80時間以内とする
・月単位では休日労働を含んで100時間未満とする
・月45時間を超える時間外労働は年半分を超えないこと
このような事が決められています。
休日労働とは
労働者の心身の健康を確保するため、使用者は労働者に対し1週1回以上、または4週4回以上の休日を与えなければならないと定めていますが、その休日に労働者を働かせることを言います。
②年次有給休暇の確実な取得
・10日以上の有給が付与される労働者に対し、5日については、必ず消化すること
2019年4月1日から、使用者は10日以上の有給休暇が付与されている全ての労働者に対し、毎年5日間、時季を指定して有給休暇を取得させることが義務付けられています。
ですが、決まりは決まりです。権利は権利です。
取得を促進させるために「時季を指定して」と会社側の都合もきちんと考えてあります。
そもそも、経営層は働き方改革の本来の意図を汲み取らなければなりません。
ご興味のある方はこちらの記事もご覧ください。
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③健康確保のための時間外労働に対する指導の強化
長時間労働やメンタルヘルス不調などにより健康リスクが高い状況にある労働者を見逃さないようにするための措置です。
具体的に、使用者には労働時間の状況の把握が義務付けられています。
また、医師による面接指導が実施されるようにするなど、労働者の健康管理が強化されました。
④中小企業における月60時間超えの時間外労働割増賃金率の適用猶予廃止
・中小企業の60時間超えの割増賃金率が50%へ(令和5年4月1日施行の見込み)
労働基準法の割増賃金率は
月60時間以内の時間外労働で25%以上
月60時間を超える時間外労働については50%以上
と定められていましたが、中小企業においては猶予期間が定められていました。
しかし、この猶予期間が廃止され、割増賃金率50%が適応される予定です。
労基法改正に関するその他のトピックス
①職業安定法関連(30年1月1日施行)
・固定残業代制度の明示
・裁量労働制の明示
・派遣労働者としての雇用の明示
・求人情報変更内容の明示(内定前に書面で)
・試用期間に関する事項(労働条件含む)の明示
・雇用しようとする者の明示
職業安定法は、主に就職後のトラブルを未然に防ぐためのものです。これまで何度も改正をくり返しています。
企業が行う「求人のルール」に関して定められています。
②労働契約法関連(25年4月1日施行の「無期転換ルール」)
契約社員やアルバイトの人に朗報な内容です。
・同一の使用者との間で、有期労働契約が通算5年を超えて反復更新された場合は、労働者の申し込みにより、無期労働契約に転換します。
※通算契約期間のカウントは、平成25年4月1日以後に開始する有期労働契約が対象。
主な有期契約労働者
・契約社員
・パートタイマー
・準社員
・メイト社員
・アルバイト
・パートナー社員 など
無期転換のメリットとして
・安定的かつ意欲的に働くことができる
・長期的なキャリア形成を図ることができる
などがあります。
③パートタイム労働法・労働者派遣法関連(改正予定)
・不合理な待遇差の禁止、待遇差の説明義務
短時間労働者や派遣労働者の雇用管理の改善や権利保護に関する内容です。
文字通り理不尽に待遇に差をつけてはいけない。ということになります。
④障害雇用促進法関連(雇用義務は現在45.5名につき1名)
・令和3年4月より43.5名につき1名
障害者の雇用の安定を図ることが目的です。
有給休暇とは?
給与の原則は「ノーワーク・ノーペイ」です。
しかし、例外が1つ存在します。
それが、有給休暇です。
有給休暇は、働き過ぎを緩和する趣旨で制定されている制度です。
日数は下表の通りです。
(一般労働者) | |||||||
勤続年数 | 6ヶ月 | 1年
6ヶ月 |
2年
6ヶ月 |
3年
6ヶ月 |
4年
6ヶ月 |
5年
6ヶ月 |
6年
6ヶ月 |
付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
有給休暇で知っておくべき事項
○使用者側は有給休暇の行使を原則として拒否できません(時季変更権の行使を除く)
ただし「事前申請」が大前提。(事前とは、所定労働日の0:00前をいう)
○有給休暇の時効は付与されてから2年。
時季変更権とは
請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。
計画的付与とは
有給休暇の5日を超える部分について、会社が計画的に消化をさせていくこと。(労使協定書が必要です。)
○有給休暇は、所定労働日にしか使えない。また、退職をもって権利は消滅する。
つまり、22日出勤して、9日公休がある月では、22日の出勤日のどこかで有給休暇を取得する必要があります。
定められた公休を有給休暇に変えることはできません。
○有給休暇は、買取が禁止されている。(時効消滅分や退職時消滅分は可能)
休日とは?(所定休日と法定休日の違いとは)
休日とは、労働義務が免除されている日のことです。
労働基準法においては、週に1日の休日をとるように規定されています。
この週1日の休日が法定休日です。
(※週とは、原則として日曜日から土曜日までを言います)
所定休日とは、法定休日以外の休日。と覚えておきましょう。
労働者にとっては大した差はなく、手当の倍率が軽微に違います。
その他
振替休日とは、本来休日であった日と、ほかの労働日を事前に交換すること。
休日労働扱いにはなりません。
代休とは、休日労働してもらったあと、別の日に休日を与えること。
こちらは休日労働扱いとなります。
労働時間とは?
労働時間とは、使用者の指揮命令下にある時間です。
通常業務外の取り組みでも、参加を強制(実質上の強制を含む)するものや、不参加を評価ダウンにする等の不利益扱いするものは、労働時間と考えられます。
逆に考えると、指示に従わずに行っている残業に対しては、厳しく対処する必要があります。
また、はっきり言わずに曖昧にするなどの黙示の残業とならないように注意が必要です。
休職とは?
休職とは、欠勤という契約不履行による契約解除を一定期間ゆうよするものです。
「休職」に関する法律がある訳ではありません。
会社が就業規則によって定めるものであって、雇用契約内容の1つです。
休職規定の主な内容
・休職限度期間(現実的に運用可能なものになっているのか)
・休職期間中の注意事項(治療専念義務や状況の聞き取り・報告義務など)
・復職可否判断(あくまでも会社側が判断するようになっている。会社指定の医師による診断協力の義務がある)
・復職後の条件(元の職場に戻れるか、職務や給与等の条件)
・復職できない場合(復職できない場合は、自然と退職となる旨の定めがある)
労働と健康について
会社には、社員に対する「安全配慮義務」というものが存在します。
医師の診断等の客観性に基づいて、健康上の不安があるようであれば、その者の就業を禁止しなければなりません。
退職とは?
退職には3つのパターンがあります。
合意退職
・職員が退職の申出を行い、法人がその申出を承認する形式。
※定年・休職期間満了退職も事前に就業規則に合意していることを考えると、合意退職に含まれると考えられます。
法人が退職勧奨を行い、職員がその勧奨に応じて退職の意思表示を行うケースもあります。
一方的な解約による退職
いわゆる、解雇(法人側からの一方的な契約解除)です。
辞職(職員からの一方的な契約解除)
就業規則に定めている退職の事前申出期間は守らずに、退職する権利を行使するパターンです。
懲戒とは?
懲戒にはけん責、減給、出勤停止、業務変更、降格、降級、懲戒解雇などの懲戒処分があります。
ただし、簡単に懲戒にできるものではありません。いきなり重たい処分を課さないようになっています。
懲戒にいたるまでの基本的なフロー
①まずは注意し改善を促す事が重要です。
②複数回の注意の場合は、次回は厳重な処分をとる旨をよく知らせておく必要があります。
③厳重処分の際は、弁明の機会を与えることが望ましいとされています。
④同程度の違反に対しては、同程度の処分をとることが原則です(平等な取り扱い)
感情的にならず、客観性をもった指導が重要です。とくに、言った言ってないの話にならないよう、双方がしっかりと記録をとっておきましょう。
服務規程(服務規律)とは?
介護という業種の特殊性により、事業所の方針(ルール)を明確に定められています。
身だしなみ、勤務姿勢、利用者対応、職場協調など、法律とは関係なくあたり前のことだけど守って欲しいルールが書かれています。
また、服務規程を守れなかった場合のペナルティも同時に定められている事がほとんどで、その内容が周知されている場合、それは法的に効力のあるルールになります。
たとえば
・清潔な身だしなみを保ち、手の爪は切りそろえ、マニキュアはしない
・長い髪は束ねる
・利用者の顔を見て、ゆっくりと聞き取りやすく話をする
・報告、連絡、相談を的確に行う
・ミスやクレームについては、直ちに報告する
・利用者に対しては、常に親切で丁寧な対応を心がける
・乱暴な対応と受け取られないよう心配りをします
・勤務時間中にみだりに持ち場を離れ、私用の電話やメールなどの業務外の行為をしない
・事業所の方針に反する言動や職場の協調性を乱す言動をしない
このように、具体的な事項と一般的に広い意味でとれる事項を織り交ぜた感じで作られていることが多いです。
逆にスタッフは、服務規程のルールや内容の理解に努め、組織人として決まり事への協力の姿勢が必要です。
お互いに誤解して争うことのないようにしましょう。
セクシャルハラスメントとは?
セクハラとは
職場において性的な言動を受け
①意にそぐわない対応をとったことで、労働条件に不利益を受ける
②不快感を受けて、就業環境が害される
といった状況を指します。
ここで言う職場とは、業務遂行に関連する全ての場所であり、実質的に業務の延長とみなされる就業時間外も含まれています。
また、相手が拒否し、もしくは嫌がっていることを認識した場合、同様の行為を繰り返してはいけません。
ただし
職場の人間関係上の忖度が発生しているため「嫌がられている認識がなかった」という見苦しい言い訳は判断基準に含まれないことが多いです。
セクハラと言われる可能性がある言動
・最近、肉付きがよくなってない?(容姿についてからかう発言)
・女のくせにそんなこともできないの?(性差を決めつける発言)
・結婚まだなの?子供まだなの?(過度にプライベートに踏み込んだ発言)
・〇〇さんと△△くん、できてるらしいよ(男女関係の噂を流す)
・挨拶時のボディタッチ(肩、手、髪などの身体接触)
・飲み会などで、隣席を強要する(自分や特定の人の横に座らせる)
・二人きりでの食事に誘う(食事などにしつこく誘う)
パワーハラスメントとは?
パワハラとは
同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場ないの優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為
具体的な例
・暴行、傷害(身体的な攻撃)
・脅迫、名誉棄損、侮辱、ひどい暴言(精神的な攻撃)
・隔離、仲間外し、無視(人間関係からの切り離し)
・業務上明かに不要なことや遂行不可能なことの強制や仕事の妨害(過大な要求)
・業務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じたり、仕事を与えないこと(過小な要求)
・私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
パワハラと断定しやすいケースとして
業務上必要な適正範囲を超えている行為が「連続・継続して」、「しつこく」という要素があります。
つまり、1・2回じゃ断定されないケースもあり、ある程度の回数も断定の要素になるということです。
もちろん、さっさと見限って辞めてしまうことも大切です。
最後に
労働トラブルの多くは
・解雇に関する事項
・いじめ・嫌がらせ等のハラスメントに関する事項
・自己都合退職に関する事項
・労働条件の引き下げに関する事項
といった項目が上位を占めています。
一般的に介護事業所の管理者たちは、以下のような教育を受け、これらの労務トラブルを回避しようと努めています。
①会社に魅力を感じ、期待を持って入ってくる社員に対して、適切な人材育成を行うこと。
たとえば、指導にあたる部下の管理を含めて、適切な職場環境を提供するように努めています。
人を大切にできない会社に未来はありません。会社にとって人材育成とは最重要課題なのです。
②労使の争いごとを社内に留めること。
部下との信頼関係やコミュニケーション、基本的な労務知識が必要であるため、その習得に努めています。
つまり、初動をはやく行って、問題が大きくなる前になんとかしよう。という作戦です。
すべての原因はコミュニケーションにあります。これが崩壊していると絶対に何も上手くいきません。
私たちは対人支援のプロであるはずです。きっと改善できるはずです。
③どんな会社にも「採用ミス」はあると考えて、教育しても改善困難な社員については、企業の秩序を維持するためにも、排除が必要なときがある。
適切な労務管理をしていれば、紛争が外部機関に至っても、会社が法的不利に追い込まれないように日ごろから準備しておく必要があります。
たとえば、人員基準を割ってしまうほどに人員不足に陥っている事業所は少なくないですが、適切な指導を行いっても改善困難な場合は「退場していただく」ことも、管理者の大切な仕事です。
これらは何も従業員をルールの元に厳しく管理しようとする意図ではなく、きちんとしたルールに従って、労使間で良好な関係性を築いていこうといったことが狙いです。
雇用する側も、雇用される側も最低限の知識はもっておきましょう。
互いに無知であるが故にトラブルとなるケースも多いのです。
今回は労務問題についての記事でした。
誰かのお役に立てれば幸いです。
それではまた!